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日本の純淡水魚ウケクチウグイ
ウケクチウグイという魚をご存知ですか?
ウケクチウグイ(Tribolodon nakamurai)は日本固有の純淡水魚で環境省のレッドレッドリストにも登録されている希少魚です。
軽く紹介しただけでもこの魚のヤバさが伝わると思います….。
この魚、日本でも限られた地域にしか生息していない魚なのですが、長野や秋田、山形に福島。そして我らが新潟にも生息しているんです。そして生息地である新潟県でも準絶滅危惧種に指定されています。
こんな希少魚であるウケクチウグイですが、その魅力に一つは最大で80センチにまでなるという点でしょう。
”ウグイ”という単語が名前に入っている魚ですが、実際は普通のウグイとは比べ物にならない大きさにまでなる魚なのです。
これは高校生活最後の夏にそんなウケクチウグイに片想いした若者の話です。
ウケクチウグイとの出会い
僕がウケクチウグイと始めて出会ったのは水族館でした。
あれは高校1年生の時に新潟市の水族館「マリンピア日本海」に行った時のこと。
そこで初めてウケクチウグイと出会いました。
このウケクチウグイを見て高校生の僕はこう思ったのです。
「なんだこのフォルム….。カッコ良すぎるだろ……。」
ウケクチウグイという魚は当時高校生だった男の子のハートを鷲掴みにしました。
しかし僕が初めてウケクチウグイを見て一番心惹かれたのは、一番の特徴であり名前の由来にもなっている”受け口”ではありませんでした。
僕が魅了されたのは、その美しすぎるフォルムでした。
顔から背中にかけての曲線美。そして魚体から滲み出る圧倒的な重厚感と色気。
それまで見たことのないタイプの魚に目が離せなくなりました。
「とにかく心ゆくまで触りたい…。」「気が済むまでその魚体を愛でたい」という純粋な思いが強く心に根付いたのでした。
ウケクチウグイを手にしたきっかけ
そんなウケクチウグイですが、当初は「釣る」という発想にすら至りませんでした。
それもその筈、ウケクチウグイは希少な魚。釣るなんて不可能だと思っていました。
しかしある出会いがきっかけでウケクチウグイに出会うチャンスができたのです。
その方はウケクチウグイを専門に狙う方でした。
そんな事が可能なのか?と思いましたが実際に数多くのウケクチウグイをキャッチしている様で紛れも無い本物の方でした。
初めてお会いしたのは近所の有名シーバスポイント。そこでぶっ込み釣りをしていたのがその方でした。
そしてその後SNSで繋がりができ、何度か釣りをご一緒させていただく中でなんとウケクチウグイ狙いに同行させていただけることになりました。
一つ知っておいて頂きたいのですが、この手の魚は釣る上で「ポイント選び」がとても重要な要素になってきます。
その方は新潟に来てから莫大な時間と苦労を重ね、自分の力でウケクチウグイのポイントを探し続けたのです。
そのポイントに赤の他人であり、「ウケクチウグイが釣りたい!」なんて言っていただけの当時高校生だった僕を案内するのがどういう事か分かりますか?
その方は自分がやっとの思いで見つけたパターンやポイントを惜しげもなく教えてくださいました。
今のうちに書いておきますが僕はウケクチウグイを手にしましたが、その半分以上はその方のおかげだと思っています。
毎週末ウケクチウグイ狙いに同行させてもらう
その方のご好意でそれからほぼ毎週末、ウケクチウグイ釣りに同行させていただく日々が始まりました。
高校が休みの土日は朝5時からハンバーガー屋でアルバイトをし、それが終わるとウケクチウグイを狙いに行っていました。
もちろんそんな生活をしている間は高校でもよく”受け口”のことを考えていました。(授業中に何度ノートに落書きしたかも分かりません。)
ウケクチウグイは限られた水系にしか生息しない魚です。その中でも限られたポイントでしか狙って釣る事が出来なくいろんな場所をランガンして回ります。
最初はその慣れない釣り方に手こずりましたが、徐々にどんな毛色の釣りかを把握していき着実に感覚を掴んでいきました。
しかしウケクチウグイを手にする事は叶わず、時間だけが過ぎていきました。
その間何度も相手をしてくれたニゴイちゃん。淡水魚らしい顔つきが個人的には大好きです。
このニゴイちゃんは本当によく引く魚なのです。正直これはこれで楽しいです…..。
あとはスモールマウスバスもよく釣れました。
スモールマウスもよく引く魚でかけると楽しいです。
新潟の信濃川水系のスモール釣りの記事も書いてるのでよければドウゾ。
こんな感じで他の魚種は釣れるのですが、ウケクチウグイには会えない日々が続きました。
魚が釣れるのは本当に嬉しいし、個人的に釣った魚を「外道」と呼ぶのが好きでは無いのですが、正直なところどうしてもウケクチウグイのことばかりを考えてしまいます。
そして獲った! 否。獲らせてもらった!!
そして高校最後の夏が終わろうとしている9月。
水族館でウケクチウグイに片思いをしてから2年が経ちました。
この2ヶ月間は本当にひたすらウケクチウグイ狙いにご一緒させて頂き、僕の中ではウケクチウグイに対する思いがピークを迎えていました。
毎週末「今回は釣れる」
と意気込んで行くのですが、中々そう上手くはいきませんでした。
しかしその間、何度か自然界のウケクチウグイの姿を見る事が出来ました。
最初に見た時は本当に感動して、
釣ってないのになんだか満足してました。
しかしながらやはりこの手に収めたい。
そんないつもと変わらない思いでウケクチウグイ釣行に挑んだ週末。遂に片想いの相手との出会いを果たすのです。
ポイントに着いて数投したのち、一つの流れ込みが目に付きました。
特に意識もせずに「一応投げておくか…..。」くらいの気持ちでルアーを投げました。
着水したのは流れ込みの先10m付近。
着水したルアーを確認し、巻き始めようとした瞬間。
ルアーから明らかな生命感を感じました。
そして一瞬ですが”確実に”時間が止まりました。
何者かに引ったくられたルアー。
その確かな生命感を感じた後僕は無意識にフッキングしていました。
滑るドラグ。出ていくライン。
事前に聞いていた話だとウケクチウグイはそこまで引きが強く無い魚。
しかしラインの向こうにいる何者かは「引かない魚というには無理のあるパワー」を持っていました。
そして魚が徐々に寄ってくる。
透き通った水の中に銀鱗輝く魚体を見た。
そして叫んだ。
「ウケクチや!!!!!!!」
その魚は岸際で最後の抵抗を見せた後浅瀬に横たわった。
そしてその瞬間に口に乗っていただけのフックがポロッと外れる。
夢にまで見た”受け口”に急いでボガグリップを刺す。
「はぁ〜……、長かった〜…..。」
長い片思いだった、、。
高校最後の夏に相応しい堂々たる魚。
これが新潟の誇る大怪魚「ウケクチウグイ」だ!!!
こんなにかっこいい魚、中々いないと思いませんか?
これで心残り無く高校を卒業出来ます。
ずっと憧れていたウケクチウグイ。獲った?否。獲らせてもらったのです。この魚に出会わせてくれた方に本当に感謝したいです。あざした!
新潟の宝ウケクチウグイ
遂に念願のウケクチウグイを手にする事が出来ました。
そんなウケクチウグイの最大の特徴はやはりその口でしょう。
これがウケクチウグイの口です。見事に受け口なのが分かります。
なんでこの形状に進化したのか?僕の頭で考えてもよく分かりません。しかしながらウケクチウグイはルアーへの捕食がヘタクソなのです。もしかしたらこの口を駆使して獲物を獲っているのかもしれませんが、やはり僕にはこの口の形状の意味は分かりません。
ウケクチウグイは体にラインが入っています。
それは尻尾まで続いており婚姻色が出ると更に濃くなります。
実際に婚姻色の出た魚を見たことはありませんが、写真で見た限りでは銀鱗には無い美しさがありました。
しかし、鱗をよく見てみると…。
お分かりいただけますでしょうか?
少し緑色の鱗があるのです。実際に見ると本当に美しい色でした。
この魚体にたくさんの魅力の詰まっているウケクチウグイ。この後少しの間観察に付き合ってもらいその後リリースしました。
大自然にその後ろ姿を見届けた後。やってきたのは大きな達成感と少しの喪失感でした。
あれだけ追っていた目標を失った感じがして少し寂しかったですが、それ以上にウケクチウグイへの想いは強く残るのでした。
さっきまでウケクチウグイに触れていた手。手に残ったヌメりを感じ、大怪魚を育んだ水で濯ぐ。
そしてウケクチウグイと引き換えに放り投げた竿を掴み、
大きなため息をつくのでした。
最後に。
1963年に発見されたウケクチウグイですが研究が進まず、新種登録されたのが2000年。それまでははっきりとした区別もされていませんでした。
そして、いまだに生態がよく分かっていない部分が多いのです。
ここまで大型になる純淡水魚で謎に包まれた生態。
ゾクゾクしませんか???
こんなゾクゾクする魚を手にする事が出来て本当に良かったです。
しかし、釣ったウケクチウグイよりもまだまだデカいのが居るそうです。
新潟のポテンシャルもさる事ながら、この魚のポテンシャルと魅力も底が見えません。
新潟にはこんなヤバい魚が居ることをもっと多くの方に知って頂きたいです。